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【読書感想】ガウディの伝言/外尾悦郎 - 情熱の天才

光文社新書

amazonで気になってた本全部買っちゃお!と思って本爆買いした時に紛れた1冊。

 

サグラダ・ファミリアの外観を遠目から見ると、ぐちゃっとしていてよくわからないおどろおどろしさを持っている。私はここ数年に至るまで、サグラダ・ファミリアのことをなんとも思っていなかった。

 

もともと建築の内部を見るのが好きなのでそういう写真集を買うのだが、その中にサグラダ・ファミリアの内部が載っているものがあり、明るいステンドグラスとユニークな柱に魅せられた。そしてサグラダ・ファミリア建設のドキュメンタリー番組を見て、一番心を動かされたのは外尾さんが修復することになった彫刻の話だ。

 

読んでいない人のためにさらっとざくっと説明すると、悪魔に誘惑される青年の彫刻の修復について。

この青年の像にはバルセロナ劇場に爆弾を投げこんだ実在のアナーキストが製作のモチベーションを与えたのではないかと言われており、外尾さんは顔を壊されたこの彫刻の修復を任された。

聖人たちが人間的な表情をあらわしているとは思えないから穏やかな表情でいいはずだが、人間の表情は? 残されている資料に、表情まではうつっていない。

青年は悪魔に爆弾を渡され、それをマリア様に投げようとしているところだが、青年の指は爆弾にかけられているもののしっかりと握ってはいない。強度のことを考えたら握らせた方がいいはずだが、それに反してガウディは青年の指を浮かせた。それはなぜか……。

外尾さんの考えは、悪魔から爆弾を渡された時、青年は迷いなく受け取ったのではなく、一瞬ためらったのだということ。ガウディは、青年が躊躇って、悪魔の誘惑に打ち勝つという可能性を残した(とドキュメンタリーの方で言ってた)。

外尾さんはこの青年の表情に、悪魔に憑かれた狂気ではなく、正義感の強い青年の迷いと苦しみを彫った。

 

この話が本当に好きで、サグラダ・ファミリアが載っている本にはこの彫刻のことが載っていないか探すほどだったが、私が知る限り載っていない。それが、この本には書いてあり、彫刻の写真も掲載されている。

 

私はドキュメンタリーをみて、ガウディが好きなのだと錯覚し、ガウディの建築に関する本など買ったが、この本を読んで私が好きなのはガウディではなく、ガウディが遺したものからガウディの考えを読み取ろうとする外尾さんの向き合い方なのかなと思った。

死んでも尚、こうして遺志を真剣に汲もうとしてくれる人がいることがどれほど奇跡的なことか……。そしてそういう人がはるばる日本から来て、それも経緯を読むと割とたまたまだということがすごい。外尾さんが彫刻家として就任したころ、サグラダ・ファミリア建設の予算はまだ潤沢ではなかったらしい。ドキュメンタリーの方で言っていたことだったかと思うが外尾さんはこの建設に関わる理解のために改宗している。実力があっても、運と情熱がなければいい仕事にはならないだろう。

読めば情熱の熱量がすごいことがわかると思うので是非読んでほしい。